スペイン 伝統工芸 ダマスキナード
*イスラム工芸を源流にトレドで発展した金銀象嵌細工*
HandCraft - Damasquinado - Arte Decorativo
トレドで創られる金銀細工の工芸品は、ダマスキナードと呼ばれています。その名称は、世界古代文明の一つチグリス・ユーフラテス川の流域に位置し、イスラム文化の中で最高の装飾工芸を育んだダマスカス (現 シリア)の地名から − ダマス物 −として呼ばれ継がれたことに由来します。ダマスカスの地から発祥した工芸技術は、東は中国へと渡り、西はスペインへと広がっていきました。実際、その技術は、紀元前のギリシャ人にも知られており、ホーマーの ”イリアダ”という作品にも既に述べられています。
金銀を巧みな技術で象嵌加工した装飾品は、世界文化遺産の地、トレドで大輪の花を咲かせ、貴重で価値ある工芸品となりました。
8世紀から15世紀にイスラムの文化、思想、宗教の影響を強く受けたトレドの中にあって、特に技術継承を受け、そこで創作され成長したのが、アクセサリー・家具・ペーパーナイフ・甲冑・剣・額絵・皿・水差し・花瓶などへの象嵌細工でした。
トレドの城門の装飾・室内の壁面・家具調度品などに見られるように、優れた技術が今でも生かされており、工芸家の手によってその技術はよって現在も脈々と伝承されています。ダマスキナードの工芸品はトレドを訪れる人々の驚嘆を誘っております。
スペイン観光みやげとして多くの人に知られたきたとはいえ、伝統のデザインを基調とし、金銀が細密に埋め込まれた、ハンドメードの高品質で、しかも著名な作家が巧みな技術を駆使して創作した作品の数々に触れる機会は、まだまだ、日本において充分あるとはいえません。
スペインのダマスキナードの工芸家の中には、文学に題材を求め、大作にチャレンジする人もでてきました。
次に制作工程に触れてみましょう。
制作工程
鋼板の素材に、線彫りを施し、デザインをおこし、次に24金の金箔 (1000分の6ミリ)・金糸あるいは銀箔などを針金やたがね、ポンチではめこんでいきます。紋様ができましたら、槌やハンマーでたたき金銀を埋め込んでいきます。仕上がったら、下生地の黒い風合いを出すために800−900度Cの高温に熱せられた、化成ソーダ・硝酸カリウム・腐食剤の液につけます。さらに様々な形の先端をもつポンチやたがねで紋様に形を付け加えます。
最後に、磨きをかけて仕上げますと、完成品になります。
1. Picado / Pricking / 線彫り保存
錆止め塗装加工済みの場合が多いのですが、いずれにせよ、保存方法として、オリーブ油を湿した布で本体を磨き、パン屑か、薄紙でソフトに拭き取ると、長期間もつようです。
現在も創作を続けている象嵌工芸作家は、トレド広しといえど、たかだか10数名。内、時に海外にでかけ、講演、実演、出展までしている工芸家は、ほんのひとにぎりです。伝統工芸は長い時の流れの中にあっても決して、根を絶やさず、進化発展し続けています。
画家グレコが愛した古都トレドは、金象嵌細工のメッカでもあり、今も訪れる者を惹きつけてやみません。